MCS-4を構成する4001や4004のゲートは,すべてP-ch MOS FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属-酸化膜半導体 電界効果トランジスタ)でできています.この文書では,P-ch MOS FETの構造とMCS-4で使用され方について説明します.

P-ch MOS FET

MOS FETは,シリコンに代表される半導体とその酸化膜,さらに金属でできた半導体素子であり,電界効果により電気を流したり遮断したりできるトランジスタです.いわば,電気的なスイッチとして用いることができます.P-ch MOS FETの模式図を下に示します.

P chMOSFET1

上方の左側からドレイン(D),ゲート(G)そしてソース(S)という箇所があり,それらはすべて金属(正確にはポリシリコン)でできています.それらはこの素子の端子と繋がっています.また,下方にはボディ,バルクもしくはバックゲートと呼ばれる箇所があり,ソースとつながっています.はじめにゲートの役割について説明します.

ゲートは,MOS FETの中で電気の入切を制御する端子です.構造は,端子と繋がる金属に接するように酸化したシリコンの膜があり,その下には半導体があります.つまり,導電物(金属),絶縁物(酸化膜),導電物(シリコン)となっています.従いまして,ゲートがマイナスに帯電すると,半導体はプラスに帯電します.本来,N型半導体はマイナスである電子が多く含んでいますが,先ほどのように絶縁物に接した箇所だけはプラスである正孔が多くなります.このため,正孔が多いP型半導体と同じような性質になるのです.この結果,下に示す図のようにソースとドレインがいわば地続きのような状態になりますので,ソース-ドレイン間に電気が通るようになるのです.

P chMOSFET2

ソースはMOS FETの中で電気を流し入れる端子,ドレインは電気を排出する端子です.先ほど説明したように,ゲートをマイナスにするとソースとドレイン間に電気の道ができますので,ソースをプラス,ドレインをマイナスとしてたくさんの電気を流すことができるのです.

MOS FETはP-ch,N-chそれぞれ下に示す記号で表されます.ゲートとソースの間に矢印があり,P-chではゲートからソースに,N-chではソースからゲートに向いています.この矢印はボディを表しており,前述のとおりソースと接続されているため,ソースとオレンジ色の線で結ばれています.ただし,オレンジ色の線はJISでは描きませんが,多くの場合にはこの線があります.さらに,赤色で描かれたダイオードを表す記号がソースとドレイン間に存在し,このダイオードは寄生ダイオードと呼ばれるものです.P-ch MOS FETの場合,ドレインがP型,ボディがN型となっており,これはダイオードの内部構造であるPN接合となります.そして,ボディとソースはつながっていますから,結果として,ドレインからボディに向かうダイオードができてしまうのです.N-ch MOS FETの場合にはソースがP型,ドレインがN型ですので寄生ダイオードの向きが逆になります.なお,実際の記号ではオレンジ色や赤色にはなっていません.

スライド8
P-ch MOS FET

 

スライド7
N-ch MOS FET

 

次にP-ch MOS FETの使用例を示します.P-ch MOS FETは,ゲートがマイナスに帯電するとソースとゲート間が導通するのでしたね.それはつまり,ソースの方がゲートより電圧を高くしてあげることを意味します.下の回路図ではV1>V2としますと,INPUT(つまりゲート)をV2に繋げればそうなりますので,ソースからドレインに向かって電気が流れるようになります.反対にソース-ドレイン間に電気を流さないようにするには,ゲートをV1とつなぐことでソースと同じ電圧にしてあげればよいのです.

P chCircuit

 

MCS-4におけるP-ch MOS FET

MCS-4では,ゲートとしてP-ch MOS FETのみ使っています.そして,VDDを-15[V],VSSを0[V]として取り扱います.ところで,電源をVDDとVSSと書き表していることを見たことがあると思います.VはVoltageの頭文字であることは想像に難くないのですが,「DD」と「SS」が何なのか,気になったことはありませんか?実はDDはドレイン,SSはソースを表しているのです.MSC-4でもそうで,のちほど示すNOTやNANDを構成するとき,P-ch MOS FETのソースに0[V],ドレインに-15[V]の電圧をかけることをとなります.

P-ch MOS FETを組み合わせれば,NOTやNANDなどの論理回路をすべて組むことが可能ですので,さらにそれらを組み合わせればCPUなどのさまざまなデジタル回路が作れます.下にP-ch MOS FETのみを使ったNOTとNANDを示します.MCS-4ではおよそ2300個のP-ch MOS FETを使ってこのような論理回路を組み合わせて作られています.

P chNOT
NOT回路

 

P chNAND
NAND回路


!!注意!!

上記で示したのはP-ch MOS FETのみを使用した例であり,最近のマイコンの多くはCMOS FETを使っています.CMOSの場合,P-ch MOS とN-ch MOSの両方を使っています.たとえばCMOSのNOTの場合には下図のようになりますので,従ってVDDはプラスの電圧,VSSにはグランド(0[V])を繋げることが多いです.今後,マイコンやICを使うとき,間違わないようにしてください.

CMOS NOT